少子高齢化が進むなか、「子どもたちの放課後の居場所づくり」や「教育環境の格差是正」を掲げ、公設塾の設置や独自の教育施策に力を入れる自治体が増えています。
一方で、現場の担当者からよく聞こえてくるのが、「環境を整えても、本当に子どもたちが継続して通ってくれるのか」「対象となる子どもが少ないなかで、これだけの公費を投じて、見合う費用対効果を出せるのか」という声です。
特に小規模な自治体ほど、この悩みは深刻になります。
対象となる子どもが少ないほど一人あたりにかかるコストは上がり、子どもたちが通い続けてくれなければ、投資はそのまま費用対効果の悪化につながります。
裏を返せば、子どもたちが自発的に集まり通い続ける仕組みさえつくれれば、少人数であることは「一人ひとりに深く向き合える」強みになります。
一過性の施策で終わらせないために欠かせないのは、この「自発的に通い続ける仕組み」づくりです。
人口2,000人の高知県東洋町も、町営塾の立ち上げにあたって、まさに同じ課題に直面していました。
本記事では、東洋町が実践した、子どもたちが「自ら通い続けたくなる」状態をデータに基づいて設計・運用した取り組みを紹介します。
「予算を投じてハコを用意しても、本当に子どもは集まるのか」
高知県東洋町は、人口約2,000人。
限られたコミュニティのなかで子どもたちを取り巻く環境は変化が少なく、体験機会の不足、中学生の放課後の居場所のなさ、高校進学に伴う町外への流出といった、複数の課題を抱えていました。
「まちの未来を担う子どもたちへの投資こそ重要だ」という町長の強い想いのもと、FoundingBaseとともに町営塾「うみいろ」の設置を決定。とはいえ役場内には、「本当に生徒が集まるのか」という不安が根強く残っていました。
心理的ハードルを下げ、自発的なリピートを生む「動線設計」
うみいろがまず取り組んだのは、子どもたちが「行かなければならないから行く」のではなく、「行きたいから行く」サードプレイスとして塾を設計することでした。
あえて「来ても来なくてもいい」と明言することで、参加の心理的ハードルを極限まで下げたのです。そのうえで自発的な参加を生むために、「子どもたちが家庭や学校でどんな口コミを生むか」という“行動変容の循環”を運用の中心に据えました。
対象となる小中学生の「登録率」や「日常的な利用率」を定量的に測定し、子どもたちの反響を観察しながら改善を重ねる──
年間37本に及ぶ多面的なコンテンツを、このPDCAサイクルのなかで企画・実行していきました。
子どもの行動分析から逆算した、学習と体験のコンテンツ運用
子どもたちの行動を分析した結果、科目学習では「部活動がないタイミングの活用」や「1週間の幅を持たせたテスト対策」など、生徒の生活サイクルに最適化。生徒自身が動きやすく、友だちを誘って連れてきやすい設計にしました。
体験学習では、「世界のお菓子パーティー」のように、実施後に感想が学校や家庭で自然に語られるコンテンツを主軸に据えました。
さらに、道の駅やキャンプ場といった地域事業者と連携し、東洋町ならではの学びの場を創出。塾の活動が施設の外へと広がり、まちの資源そのものが学びのフィールドになっていきました。
こうして「来る理由となる企画 → 来てみたら満足 → 口コミ → 次の企画」というサイクルを、泥臭く回し続けたのです。
開塾1年で登録率約70%・満足度9.9。子育て世帯に欠かせないインフラへ
地道なアプローチを重ねた結果、「うみいろ」の登録者数は対象生徒の約70%*に到達。中学生向け個別指導の利用率は約50%を記録し、子育て世帯にとって必要不可欠なインフラとして定着しています。
満足度調査では、生徒が10点満点中9.9、保護者が9.3を記録。
「ここがなくなると困る」という生徒の声や、「疲れていても“絶対に行きたい”と言う塾は他にない」という保護者の言葉に、その確かなエンゲージメントが表れています。
*令和8年6月現在
塾を超えて、まち全体に波及する「にぎわい」の起点へ
うみいろの成果は、塾の中だけにとどまりません。
子どもたちが「参加してみたら楽しい」という原体験を積み重ね、まちのなかで活動する姿が日常になったことで、その“にぎわい”が地域へと波及し始めました。
活き活きとした子どもたちの姿に触れた町民からは、「子どもたちの未来に優しいまちであり続けるために協力したい」「こども食堂で料理を提供してみたい」といった主体的な申し出が生まれています。うみいろは、教育の枠を超えて地域コミュニティを動かすエンジンとして機能し始めています。
今後は、うみいろを起点とした教育環境や地域コミュニティの充実を、子育て世帯が東洋町を選ぶ理由=まちの強み・ブランドへと育てていきます。
次なる打ち手として、対象学年の外にいる小学生に向けて「はやくうみいろに通いたい」と思わせるスポット企画を開発することで、対象学年に上がる前から自然な接点をつくり、対象学年の前後にいる子どもたちまでもがうみいろで日常的に活動している状態を目指します。
住民や子どもたちの状態をデータで正確に捉え、フェーズに応じた最適なアプローチを展開しながら、子どもたちがまちで活動するエネルギーをまち全体へ波及させていく。この「検証サイクル」を回し続けることこそが、少人数への教育投資を“まち全体の活力”へと拡張する、再現性のあるアプローチです。
【無料相談会のご案内】
ここで紹介したアプローチは、東洋町に限らず、全国の自治体で再現可能な手法です。「まちの“必須インフラ”になる公設塾の運用戦略」にご関心のある自治体のご担当者様は、ぜひお気軽にFoundingBaseまでお問い合わせください。
現状の把握からKPI設計、現場での実行・伴走まで、まちの状況に合わせてご支援します。視察のご相談も可能です。
※この記事は2026年07月時点の情報です。
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