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地域の未来を創造する「LXデザイナー」の掟

FoundingBaseのLXデザイナー、河口彩香です。

これまで、FoundingBaseのデザイン組織 “ LXデザインチーム ”についてご紹介させていただきました。

今回も前回に引き続き、個々人にフォーカス。実際の地域でのLXデザイナーの在り方、そして河口自身が創り出したい未来について綴ります。

LXデザイナーの役割

安平町(あびら)は北海道にある人口約8000人の町。「北海道の玄関口」である新千歳空港から車で20分、札幌市から1時間、千歳市・苫小牧市などの中規模都市から30分と距離が近く、生活の利便性が高い、日本一の公教育を掲げる町。
FoundingBaseにジョインしてからもうすぐ1年、私は北海道安平町で暮らしています。

私たちの掲げるLXデザイナーの役割とは、地域のあり方(Local)、暮らしのあり方(Life)、ファン創出のあり方(Like)の観点から、未来のあるべき姿を構想し、体験(Experience)まで落とし込むことです。地域で生き続ける事業を創出し、対話を重ね、その土地の温度を感じ取りながら、感動体験をデザインする。感動体験をデザインすることが巡り巡って暮らし、そして地域をよくすることにつながると信じています。
LXデザイナーは拠点を横断してデザイン案件に関わりますが、この記事ではFoundingBaseが拠点を置く9つの地域(2021年2月現在)のひとつ、安平町での案件にフォーカスして記していきます。

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町全体・組織のブランディング始動。アビラチョウエンジンの背景

LXデザイナーとして安平町で携っているプロジェクトは「その地ならではの感動体験をつくること」を軸に、教育・観光・移住促進・ふるさと納税・ケーブルテレビ番組の制作など多岐に渡ります。
そして先日、安平町役場の採用ブランディングの一環として、ある一つの言葉とビジュアルを公開しました。
その名も、“アビラチョウエンジン”

令和2年度からFoundingBaseが安平町の採用広報の支援に従事し、Wantedlyを使用したインタビュー記事の連載や、役場×FoundingBaseの採用イベントを実施してきました。
令和2年度2月の職員募集には12名の応募があり、4人が採用されました。採用実績面でも成果が出てきた中で、今後の展開を構想する上で提案したのが、他自治体との差別化を図るための試みである、この「アビラチョウエンジン」です。

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「自分たちが町のエンジンだ。進め、安平町。」のコピーのもと、まちのエネルギーが循環する様子を職員の仕事にフォーカスして描いています。

私たちはWantedlyのインタビュー記事作成の際に、役場で働く職員さんの強い思いを受けとってきました。この町には、前に進もうとする大きくて力強いたくさんのエネルギーがある。
役場職員の皆さんの姿や、安平町役場の行動指針を一つの形にすることで、職員さんにご自身のお仕事や役割の素晴らしさを実感し誇りに思ってもらえるのではないだろうか。そしてそれを町外にもしっかり届けられたら、共鳴する挑戦心溢れる応募者とのご縁が広がるのではないだろうか。安平町のファンづくりをすることで求める人材と出会えるように、そして逆に採用を通じて安平町のファンづくりをする。そんなことを考えながらこのクリエイティブを制作しました。

価値観が変わったある役場職員さんの投稿

“アビラチョウエンジン”というキャッチコピーと、このイラストに込められているのは、二つの“エンジン”。
「私たち役場職員は町のエンジンである、かけがえのない誇り高い役割だということ」、そして「円陣を組み一致団結して町を前に進めること」。
ロゴの「engine」部分は少しバラバラと向かい合っていて、円陣を組む様を表しています。

このイラストを書き上げるにあたり注力したことの一つが「町と人を知りにいく」こと。
インタビュー記事を読み直したり、出会ったたくさんの方のFacebookをこっそり遡って見に行ったり、実際にもう一度お話を伺ったり。

遡ってみていく中で一つ、、自分の価値観が変わったある言葉がありました。それは普段からよくお世話になっている大好きな職員さんのFacebookの投稿の一文。

こうした記念のボードを作成するたび、私たちが一番意識することがある。
それはデザインや文字の大きさではない。
この仕事で一番頑張ってる私のバディーに敬意を表し、さりげなくデザインの中に組み込むことである。
今回もいい感じで彼が登場していることは世間には内緒なのである。

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これは2019年にオープンした安平町の道の駅で来場者数100万人を達成した際の記念ボードで、このプロジェクトを担当されている職員さんの投稿。普段からこのお二方がお互いに敬意を持たれていることは感じていましたが、愛に溢れたこの投稿をみた時、どうしようもなく目頭が熱くなり胸にグッとこみあげてくるものがありました。
この投稿をここに引用させてもらうにあたり、投稿された職員さんに連絡をしました。直にそのエピソードを聞いたその言葉からはあたたかい温度を感じ、さらに重みを実感。襟を正してもらった感覚と同時に、改めてLXデザイナーとして愛を持って地域と人に向き合いたいと感じた瞬間でした。

余談ではありますが完成したイラストには、「この人は〇〇さん」と私の中で設定があり、実はみなさんひっそりと隠れています。まだ短い期間ではありますがこの1年で私が出会い関わらせていただいた役場職員さんや町民の顔を思い浮かべながら進めたこのプロジェクトは、この方達の人生に自分は関わらせてもらっているんだと強く意識させられるものとなりました。

大切なのはここに住まう、ここを大切にされている方の思い。プロとして最適解を提案する中で、自分が一番のファンになりしっかりこの地域の思いをのせたものに、と意識がより強くなっています。

仕事と暮らしの境界はゆるやかなグラデーション。都会にはない不思議な仕事が日常に。大切なことはその場の温度を自らが当事者となり体感すること。

感動体験をつくる上で重要だと感じるのが、「その場の温度を自らが当事者となり体感する」こと。
この場所には、都会にはない不思議な仕事が日常にたくさんあります。
薪割りや薪拾いのために仲間たちや町の方と1日外で作業をする日もあれば、教育事業の親子キャンプでスタッフとして子どもたちにアイスクリームの作り方を教えたり、拠点のコミュニティスペースENTRANCEの空間づくりのためにDIYをしたり、キャンプをしたり。仕事と趣味、暮らしは非常にゆるやかなグラデーションを描いています。
寒い冬を越え生きていくためには薪割りが必要であり、大雪が降ればみんなで仕事を中断して雪かきをする。町で推し進める事業や、メンバーが心を込めて進めるプロジェクトがあれば手伝い、自らも体験する。そしてそこにはたくさんのコミュニケーションが詰まっています。町の循環や営みを自らが身をもって体感し当事者となること、その上でたくさんのコミュニケーションをとることは、LXデザイナーとして大切なことだと感じています。

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くっきり分離させることもできるとは思いますが、私がそれをしないのは「今」を知りたいから。歴史や背景を知ることは必要ですが、過去には戻れない分、今の温度を自らが身をもって体感し、リアルの声に耳を傾けることこそが自分にできること。
これまでここにいた方が大切につくってきた場所に足を踏み入れさせてもらうのは、ある意味ひとつの挑戦です。足を踏み入れさせてもらうからには、敬意をこめて本気でこの地を愉しみ、自らが一番のファンになりたいと思っています。

普段、少し余裕ができたら行く場所があります。それは私が安平での母だと慕っている方が営むカフェ。遊びに行きそこでのんびり2時間ほどお話をする。はじめましての方と繋がらせてもらったり、これまでの町の話を伺ったり。今ある環境は、長い歴史をかけて町の方が作り上げてくれたからこそあるものなんだと知れたのも、安心してこの町にいられるのも、そのような機会を持てたからです。

地方の限界を乗り越える。点と点を結び、面をデザインすること

LXデザイナーの特徴は、点と点を結び、面をデザインすること。
この提案自体も、関わり方も、これは役場と共創を重ねてきたからこそ辿り着いたもの。別件で触れたものが間接的に違うプロジェクトのアウトプットとして生きる場面が多くあります。“アビラチョウエンジン”も例外でなく、これまで関わった様々なプロジェクトで見てきた地域の姿や関わった人を面で捉え、あるべき姿へ昇華させるべく一つの絵に落とし込みました。

これからの安平町を切り拓いていくために、LXデザイナーは非常に責任重大な役割だと捉えています。
点と点を紡ぎ面をデザインすることも、その場の温度を自らが当事者となり体感することも、なかなか一朝一夕にはいかないものだらけ。そして、地域の魅力を形にするため、デザイナーとして、当然ながら作る力を磨く努力をすることからも逃げてはいけないと感じています。

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地域の未来を創ることはすなわち、そこに住まう人の「あしたも楽しみ。」の気持ちをつくること。
“アビラチョウエンジン”で描いた船のように、この町というひとつの船が明るい景色を見られるように、地域の魅力を引き出し道を描くのが私たちFoundingBase。前に進んでいることを、確かに感じます。
私たちは決して船を止めず、これからもオールを漕ぎ続け、過去と今を紡ぎ丁寧に未来をつくっていきます。