高知県の中西部に位置し、日本最後の清流と呼ばれる四万十川の中流域に広がる四万十町。県内最大の面積を誇り、豊かな自然と農林水産業に恵まれた町です。人口は約14,000人、高齢化率は50%を超え、転出が転入を上回る状況が続いています。

2026年4月に就任した山脇光章町長は、2006年の町村合併を財政担当として経験し、その後は人口ビジョンの策定、人材育成推進センターの立ち上げ、教育長を歴任してきた人物です。

「人口減少という現実から目を背けるのではなく、受け止めた上で、それでも『この町で暮らしたい・関わりたい』と選択できる状態をつくりたい」。

町の未来を数字と現場の両面で見通してきた山脇町長に、これまでの歩みと、これからの四万十町が目指す姿を伺いました。

「人と財政の見通し」から掴んだ、まちづくりの原点

―山脇町長は町長就任前、長年行政の現場でキャリアを重ねてこられました。ご自身のまちづくりの考え方の原点となった経験について教えてください。

山脇町長:印象に残っているのは、2006年の町村合併です。

窪川町・大正町・十和村の2町1村が合併するにあたり、私は旧窪川町役場で財政担当をしていました。合併に際して、3町村のすべての事業を打ち切り決算し、新たな町の1つの予算に組み直す必要がありました。

文化も生活も、住民の考え方も違う中で、行政サービスの平等性を確保しながら財政計画を立てていく。財務・会計的な部分はもちろん、合併後のまちづくり事業についても議論を重ねました。他町村の担当者と喧々諤々やりましたが、自分にとって大きな経験でした。

―新しいルールや土台をつくるのは大変なご経験だったと思います。そこから得たものは何だったのでしょうか。

山脇町長:合併によって、196キロある四万十川の中流域を占める、県内で最も面積の広い町になりました。

背景の異なる住民や職員が融和や、まちづくりに向けて前を向くには、やはり「将来の見通し」が必要です。その見通しとは、すなわち「人と財政」です。まずは「財政は大丈夫だ」という確かな土台を示すこと。それがあって初めて、新たな挑戦に向かえるのだと実感しました。

「縮小」の現実を見つめ、たどり着いた「まちづくりは人づくり」

―その後は防災や地方創生、人口ビジョンの策定など、町の根幹に関わる業務に従事されました。「人づくり」に力をいれるきっかけはどこにあったのでしょうか。

山脇町長:2014年頃、国の地方創生の動きに合わせて「人口ビジョン」を策定したのが大きな転機でした。2040年、2060年に向けて進む急激な人口減少と、地域の限界集落化していく現実を、数字として突きつけられたんです。

広大な町内に集落が点在する四万十町において、地域の営みをどう維持していくか。

人口縮小そのものを完全に止めることはできません。だからこそ、ただ衰退するのではなく「賢く縮小(スマートシュリンク)」しながらも、この町に残る、この町を選ぶという選択ができる状態をつくりたいと考えました。

最後に地域を支えるのは「人」です。この町で暮らし続けたい、深く関わりたいと思う人を育てることがすべての根幹だと考えました。

―教育長を約6年務められた後、町長に就任されました。町長を志したきっかけは何だったのでしょうか。

山脇町長:人材育成推進センターや町営塾「じゆうく。」の立ち上げに関わり、教育長として現場の子どもたちや地域の方々と直接向き合う中で、「まちづくりは人づくり」だと改めて実感しました。

この町を支える次の世代を育て、挑戦できる基盤を未来に繋がなければならない。その想いがふつふつと湧き上がりました。前町長や周囲の後押し、何より家族の協力もあって、町長として立つ決意を固めました。

「じゆうく。」の10年

―四万十町は、「教育」「産業」「地域活性化」からなる「人づくり戦略」を掲げられています。その中核となる「教育」の柱として、10年前に町営塾「じゆうく。」を立ち上げられました。

山脇町長:当時、社会に一番近い教育現場は高校生だと考えました。折しも高校の存続も課題になっていた時期です。地方の高校生は選択肢が狭まりがちだからこそ、選択肢を広げ、多様な視点を持てる機会をつくりたい。そのためには、高校と町営塾をセットで支援することが不可欠でした。

島根県海士町などの先進事例を参考にしつつ、四万十町に適した形を模索しました。町全体で地元の高校を支えたいという意識の醸成も必要でしたし、制度設計や予算、議会の承認と、色々苦労はありましたが、それがあったから今があります。

―10年が経過して、どのような変化が生まれていますか。

山脇町長:「じゆうく。」のスタッフは、親でも先生でもない「斜めの関係」の大人として、子どもたちに寄り添ってくれています。この町で働き、この町の課題に向き合っている大人が身近にいる。子どもたちにとっては、地域に関わって生きる姿を間近で見られる存在です。そのスタッフと一緒に地域探究に取り組む中で、子どもたちは地域を知り、課題を自分ごととして捉え、自ら考え発信できるようになりました。

何より嬉しい変化は、「じゆうく。」に通っていた子どもが大学卒業後に「地元のために働きたい」と役場職員として戻ってきてくれたことや、卒業生インターンとして町に関わり続けてくれていることです。

―一度町を出た若者が戻り、あるいは外から関わり続ける循環が生まれているのですね。

山脇町長:田舎にいると、どうしても井の中の蛙になりがちです。だからこそ、若いうちに一度町を離れて、広い世界で多様な価値観に触れる機会は必要だと思います。

その上で「やっぱり故郷はいいな」と戻ってきてくれる。あるいは、離れていても四万十町と関わり続けてくれる。そういう循環やつながりをつくることが、私たちが目指してきたことでした。

いまは「じゆうく。」の卒業生がインターンとして関わる仕組みができ、町を離れていても、四万十町に関わりたいという思いを込められる環境があります。すぐに戻ってこられなくても、つながり続けられる「場や機会」があることも重要な成果だと感じています。

幼児期からの「学びの積み上げ」と、共創パートナーへの期待

―循環を確固たるものにするために、今後どのような新しい挑戦を考えられていますか。

山脇町長:高校生での成果を踏まえ、現在は「より若い年代からの学びの積み上げ」に着目しています。

その一環として、昨年度から「就学支援プロジェクト」をスタートさせました。大学の専門家チームとともに、就学前の5歳児の発達や環境を多角的に見立てを行い、その結果を元に一人ひとりに応じた指導・支援を保育士や教員が進めています。

さらに今後は、地域に愛着を持つ「地域探究」に加え、世界とつながる「英語力」も欠かせません。GlobalとLocalを掛け合わせた「グローカル」な視点から、小学1年生から高校3年生までの系統的な教育仕組みづくりを推進していきます。

―こうした取り組みを推進する上で、外部パートナーに期待することをお聞かせください。

山脇町長:単なる支援者ではなく、地域を深く知った上で、一緒になって目標やプログラムをつくり上げていく「協働のパートナー」を求めています。

多様な価値観に触れることが求められる現代社会だからこそ、社会の最新の動きや外部の新しい視点を取り入れたい。お互いに知恵を出し合い、ローカルから新たな価値を共創していきたいです。

若者が帰れる「受け皿」を作り、攻めの経営で「賢く縮小」する

― 四万十で学び育った人が戻ってきた時、仕事がなければ定着は難しいですよね。

山脇町長:おっしゃる通りです。どれだけ町に愛着を持ってくれても、生活を成り立たせる仕事がなければ帰ってこれません。

農業や観光といった基幹産業の強化はもちろん、デジタルを掛け合わせた新しい働き方など、若者の声を拾いながら「四万十町ならではの選択肢」を広げていきたいです。

最近では、Uターンや移住者が自分のスキルや意欲を活かして独立・起業を支援する制度を整えたことで、これらの支援を活用して独立する例も出てきています。

―教育や産業、暮らし、福祉へ投資を続けるために、行政経営の面ではどのような舵取りをされますか。

山脇町長:人口減少の中で人や地域に投資し続けるためには、行政コストを抑える「賢い縮小(スマートシュリンク)」と、強固な財政基盤が欠かせません。

合併のときに学んだのは、人と財政の見通しがあって初めて、人は前を向けるということです。投資を続けるためには、財政を適切に締め直す必要があります。住民の生活に直結する行政サービスは守りつつ、公共施設の集約、統合によって複合的な機能を持たせる、行政リソースの最適化といった取り組みを進め、そこで生まれた財源やリソースを教育・産業・福祉という「未来への投資」に機動的に回していきます。

―最後に、四万十町が目指す5年後、10年後の町の未来について教えてください。

山脇町長:子どもたちが地域への愛着や誇りを育み、その魅力や可能性を感じ、自分で考え行動できる環境があること。地域の温かいコミュニティが続いていること。そして若者が新しい仕事やビジネスにチャレンジできるオープンな環境になっていること。

実は現在でも、アンケートで「このまま四万十町に暮らしたい」と答える方の割合は高いんです。すでにそう思ってくださっている方がいる。だからこそ、それをもっと発信していきたい。全国に四万十町のイメージが広がっていけば、外から関わりたいと思う人も増えていくはずです。

人口規模が変わっても、「ここに暮らしてよかった」「ずっと住み続けたい」と誇りを持てる四万十町をつくっていきます。

※この記事は2026年09月時点の情報です。


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