四国山地の真ん中に位置する高知県大豊町。315平方キロメートルにおよぶ町の約9割を山林が占め、平地はわずか2%。85の集落が点在し、人口約2,800人、高齢化率60%を超える高齢化・過疎化が進む町です。

過酷な条件にも見えるこの地で、2024年12月に就任した下村町長が掲げるのは、「大豊の豊かで元気な暮らしを、未来へつなぐ」という想い。

高校卒業後に大豊町役場に入庁して37年。まちづくりの現場で様々な地域課題に向き合い続けてきた町長。

住宅、デジタル、観光、遊休施設─ 一見バラバラに見えるすべての施策を「未来へつなぐインフラ」として捉え直す下村町長のこれまでの歩みと、民間パートナーとともに描く「共創の未来」を伺いました。

原点は「生まれ育ったまちの暮らしを守りたい」という想い

ー 下村町長は、大豊町役場に入庁されて37年間、行政職員として務められました。役場に入られたきっかけを教えてください。

下村町長:高知県南国市にある高校を卒業後、1987年に大豊町役場の臨時職員として入庁し、正採用となって以来、ずっとこの大豊町で仕事をしてきました。原点はとてもシンプルで、「生まれ育った地元で仕事をしたい」という想いです。

企画や財政の仕事を長く経験する中で、まちづくりや町の将来を描く仕事を担当してきました。50代の頃には、県内で唯一光ファイバーが未整備だった当町において、2018年から約2年半をかけて315平方キロメートルの町内全域にブロードバンドを整備するプロジェクトを推進しました。また、基幹産業である林業を支えるため、大型製材工場の誘致などにも力を注いできました。

ー 副町長を経て、自ら町長選に立つ決断をされた理由は何だったのでしょうか。

下村町長:正直に言えば、最初は自分が町長になるとは思っていませんでした。転機になったのは、周りの方からの後押しです。

もちろん、動機は一つには絞れません。ただ、80を超える集落があり、315平方キロメートルの広大な土地で人口が2,800人あまり、高齢化率が60%を超えるという厳しい状況をなんとかしたいという思いはずっとありました。

周りからの「なんとかしてくれないか」という期待の声、行政の取り組みを自ら変えていきたいという想い、そしてこの町に対する強い想い。そうした様々な要素が重なって、立候補の決意へとつながっていきました。

「暮らす・働く・住む」はセットで動かす

ー 町長選で掲げられた3つの基本方針が立ち上がった背景をお聞かせください。

下村町長:私が掲げるのは、「暮らし働ける環境」「安心して元気に暮らせる地域」「未来へつなげる土台」という3つの公約です。

町長になってからは、この3つを総合計画の基本方針に位置付けました。観光や交流、子育て、教育、福祉、医療、産業。そうしたまちづくりの機能を支え、展開していくベースが、この3つです。

どんなに教育支援を充実させたり、魅力を外にアピールしても、住む場所や働く場所がなければ人は残れないし、来るわけがないんです。結局のところ、「暮らす・働く・住む」という生活の環境をセットで解決しないといけない。だからこそ就任後、最初に着手したのが町営住宅の再編整備事業です。

ー 具体的にどのような政策を進められているのでしょうか。

下村町長:町内の町営住宅は40〜50年間手つかずのままでした。そこで今回、PFI(民間資金等活用事業)を導入し、役場の隣接地に新たな町営住宅22戸の整備を着工しました。さらにインターチェンジ周辺の住宅も再編し、若者から高齢者まで入居できる町営住宅と、新たな民間賃貸住宅とが、きちんと棲み分けできる形をつくっています。

これは10年単位の息の長い事業です。当町では現在、大豊町で生活していれば大学を卒業して社会に出るまで町が支援する教育・子育て施策を行っています。しかし、そもそも住む場所や働く場所がなければ若者は定着しません。

働き方も、工場で働くというような形だけではありません。インターネット環境を活かして本業と副業を組み合わせるような働き方もある。そうした「大豊で暮らして働ける環境」を町として提供していくことが、住宅再編の真の狙いです。

山間部はあっていい。「非効率な地域」こそ、デジタルで守る

ー 平地が2%しかない山間部において、点在する85の集落をどのように維持していくお考えなのでしょうか。

下村町長:中心部だけに人を集めて、山間部の集落から人が消えていくようなまちづくりは考えていません。条件の厳しい山間部でも、集落で安心して暮らせる地域を残していいはずなんです。

「高齢化率60%」と聞くと、マイナスで暗いイメージを持ちますが、そうではありません。みなさんすごく豊かに、元気に暮らしています。不便な場所かもしれないけれど、「それでも大豊町に住む価値がある」と愛着をもって暮らしている。この明るい要素と暮らしを絶やしてはいけません。

大豊町は山間の非効率な地域ですから、地域の特性によって、生活も文化も働き方も違います。学校や教育、福祉・医療といった機能は、必然的に中心部に集まります。ここは町の「基幹機能」として維持していきます。

一方で、周辺部や中間の地域には、12の公民館単位での活動があって、地域のつながりが深い。この公民館単位を中心とするつながりを「連携機能」の軸にして、中心部から最も離れた集落を「山村機能」として町内全域で安心して暮らせる政策をとっていきます。

そして、山間非効率な地域だからこそ、水道の管理や監視装置に最新のデジタル技術を積極的に投入する。「山奥で非効率だから無理だ」ではなく、非効率な場所だからこそデジタルを使って人の負担を減らし、集落の暮らしを守る。中心に集める機能と、地域をつなぐ機能、そして山村ならではの機能を分けて、それぞれの特性に合ったまちづくりをしていきたいと考えています。

「赤字が当たり前」という風潮を変える。民間協働の取り組み

ー 「未来へつなげる土台」として、観光拠点の運営体制も大きく見直されていますね。

下村町長:かつては「行政がやる施設なのだから赤字で当たり前だ」という風潮がありました。5年ほど前まで、町内の観光施設の指定管理を四国外に出したことはなく、県内や四国内の事業者さんにお願いしていましたが、なかなか黒字に転換できない。最終的に経営が厳しくなって撤退ということもあり、「山荘梶ヶ森」に関しては1年近く休館していたこともありました。

県への相談を経て、都市部でも指定管理者を募集することにしました。実際に募集したら手を挙げてくれた会社があって、現地を見に来られた。私が案内しましたが、都会から来た方はその施設や自然環境に感動して「やらせてください」と言ってくれた。

現在、「ゆとりすとパークおおとよ」や「道の駅大杉」は新しい運営体制のもと、経営改善とリニューアルを進めています。地域に入って現場から課題を見つけ、これまでとは違った目線で施設や地域をつくっていく。これはすごく可能性がある取り組みだと思っています。

飛び抜けて観光客がいっぱい来るまちでなくても、構わないんです。ただ、便利がいいだけでは、同じような施設との差別化はできませんし、競争力でも勝てません。大豊町ならではの特色をつくらないと、1,700を超える市町村の1つとして埋もれてしまう。逆に言えば、非効率な条件の大豊町で成功例をつくれれば、日本全国どこでも通用するはず。だからこそ、今までできなかったことに挑戦していかないといけない。

挑戦を支え、再生を図るため、行政としても「できることはすぐ実行する」というスピード感で伴走しています。「ゆとりすとパークおおとよ」は3年計画でリニューアルを進めていき、「道の駅大杉」も少しでも収益が上がる環境づくりを町として考えていきます。指定管理者にはこれまで当たり前だった部分を壊して、新たな再生を図っていただけたらと期待しています。

ー 再生した施設を通して、何を伝えていきたいとお考えですか。

下村町長:これまで大豊町といえば農林業でした。第一次産業は基幹産業ですから、ベースとして維持していきます。そのうえでプラスアルファを考えたときに、文化の多様性があると思っています。例えば2026年3月に国重要無形民俗文化財に指定された「大豊の碁石茶の伝統製法」など、珍しいものがいっぱいあるのに、上手く活かしきれていません。

これからは外へのアピールも積極的にしていかなければなりません。自然や文化、住民の暮らしが伝わる、「まちの顔」となるような施設にしていきたいですね。

廃校や空き家活用を共創・協働する、パートナーへの期待

ー 今後、さらに外部の企業や人材と一緒に取り組んでいきたい分野はありますか。

下村町長:もう一つの可能性は、「廃校や空き家などの遊休施設の活用」です。

道の駅大杉の近くに小学校があったのですが、その空き校舎を有効活用したいと考えています。周辺には義務教育学校の「大豊学園」もありますし、樹齢約3,000年の国の特別天然記念物「杉の大杉」もあります。

例えばワーケーションのように、大豊町の旧校舎にいろいろな会社が集まって仕事ができる環境をつくれたら、地域にものすごく刺激があるのではないかと思います。そこに働きに来る、大豊町に住みながら働く。一時期でも構いませんし、会社が入れ替わってもいい。住まいと、学校を活用したコワーキングスペース。自然のなかで仕事をして、地域の人と交流できる環境をつくりたいですね。

自然といっても、がっつり山の中ではなく高速道路にも近い。中途半端な場所ですが、それを利点と捉えています。そこで働く方が、地域の草刈りやイベントも一緒にやる。地域の高齢者と接する。そういう形で広がっていけばいいなと思っています。

こうした有効活用は、地場の企業だけでは絶対できません。東京でも大阪でも、四国内の会社でも構わないので、大豊町に来て仕事ができる環境を提供したい。学校だけでなく、古民家や空き家もいっぱいありますから、今の働き方に合った空間を提供できる分野に期待しています。過疎の町ですから、人が一人来てくれれば、それだけでプラスになるんです。ありがたいですし、違った視点でまちづくりを考えてもらえる、貴重な存在だと思っています。

ー 最後に、これからに向けたメッセージをお願いします。

下村町長:私が目指す未来は、生活が厳しい部分もあっても、「それでも大豊町に住みたい」と思えるまちにすることです。

単に住めるだけでなく「住みたい」と思える住宅を提供していくこと。集落では、空き家の有効活用や、安心して暮らせる地域づくりを進めること。子育てや教育の施策も、人口が減るなかで財源を確保しながら継続していかなければならないと思っています。

一つに絞るのは難しいですが、バランスを取りながら整理して、3つの基本方針を展開していく。そうすれば、未来に希望の持てる町になるのではないかと思っています。

※この記事は2026年08月時点の情報です。


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