福井県南部、三方五湖や水晶浜の自然に抱かれた人口約8,500人の町、美浜町。

人口減少と少子高齢化が進むなか、戸嶋秀樹町長が掲げるのは「まちづくりは人づくり」という考え方。その原点にあるのは、町長自身の「生まれ育った町が好き」という想いです。

2019年の町長就任以来、人づくりを軸に、人・空間・コンテンツが交わり、繋がる取り組み「みはまシナプスプロジェクト」を推進しています。

戸嶋町長に、これまでの歩みと、シナプスプロジェクトが描く美浜町のこれからを伺いました。

副町長から町長へ。原点は「この町が大好きだ」という想い

-元々は県庁に入庁され、その後、美浜町の副町長を経て町長に就任されたと伺いました。町政に関わる大きなきっかけとなった副町長就任には、どのような背景があったのでしょうか。

戸嶋町長:技術屋である前美浜町長からお声がけをいただいたのがきっかけでした。県庁時代は技術職として農地や水路、農道の整備に携わり、美浜町とも少なからず繋がりがありました。ただ、農業関係は分かっても、教育や福祉、観光といった分野の知識は全くなかったんです。ですが、前町長は「物事を立体的に見られるのは技術屋が理想だ」という考えをお持ちで、そこに私との共通点を見出してくださったのかなと思います。

副町長として町民の方々や幅広い政策に向き合う中で、現在の町長としての土台や軸が作られていったのでしょうか。

戸嶋町長:そうですね。小さい頃は、美浜の山へ登ったり、川で魚を捕ったり、海でサザエやアワビを捕ったりと、自然の中で遊ぶのが大好きでして、自分の住んでいる町は素晴らしいな、見守ってくれる町が好きだという思いが子どもながらにありました。

それから地元を離れ、県で30数年働いてきましたが、副町長として町の自然や伝統文化、産業に向き合い、多くの方々と接する中で、この町が大好きな自分を再認識することになりました。

最初は「町長はとても無理です」とお断りしていたのですが、生まれ育った町を良くする力になれるのなら、ぜひやってみたいという気持ちに変わっていきました。その原点には、「この町が大好きだ」という思いが育まれてきた子ども時代にあったと思っています。

まちにシナプスを。その核としての人づくり

改めて、美浜町が推進している「みはまシナプスプロジェクト」について教えてください。

戸嶋町長:みはまシナプスプロジェクトは、2022年から推進しているまちづくり事業で、「人づくり」「空間づくり」「コンテンツづくり」の3本柱で展開しています。人、空間、コンテンツが交わり、つながり、新たなひらめきが生まれる。ひらめきの連鎖によってまちのにぎわいが広がっていく状態をシナプスになぞらえています。

なかでも力を入れられているのが「人づくり」の分野ですよね。

戸嶋町長:まちづくりを進めるにあたって、総合振興計画など様々な計画がありますが、それを実現するために動くのはすべて「人」ですよね。地元の方々や、役場の職員、人が動くことで初めて計画は実現します。

物事を進める時、好きなことならどんどん興味が湧いてきて、極めたり情報を吸収したりできますよね。それと同じで、役場の職員も地域の住民も、取り組む事柄に「好きだ」という気持ちがこもっていれば、自ずと結果は違ってくると思っています。

風景、伝統文化、集落の人の繋がり、何でもいい。ここの町が好きだという気持ちがあれば、成果につながり、失敗しても乗り越えていける。

「まちづくりは人づくりにある」と強く思っているのは、そういう思いを持って臨めば、きっとより良いまちの未来が見えると思うからです。

美浜町の“人づくり”の根幹は「この町が好き」という思いを育むこととも言えますね。実際に地域の小学校の探究的な学びや地域活動を見ると、美浜町の子どもたちは積極的にまちに関わっていますよね。

戸嶋町長:すごく子どもたちの自主性、主体性、協調性が育まれてきているなと感じます。

2018年からスタートした「ふるさとみはま元気プロジェクト」では、町内3校の児童が5〜6人のチームを組んで課題を探究し、数百人が入るホールで成果を発表する場を設けているのですが、ほとんどの子どもたちが自分の言葉で学んだことを発表できますし、途中で言葉に詰まる子がいても、チームで支え合う姿が見られます。

中学に進学した子どもたちも、意欲を持って真剣に物事に取り組む姿が印象的で、部活動では地区大会を勝ち抜き、県大会や全国大会へ進む子もいます。学力も、福井県は教育先進県なので非常に教育レベルが高いのですが、昨年の県の調査で初めて全県平均を上回りました。スポーツにしても学力にしても、子どもたちの活躍ぶりに、これまでの取り組みの成果の一端が垣間見えると思っています。

そして2023年からは、放課後の学びとして「放課後教室サン」と「学びコミュニティKai」を開塾しました。探究学習で力をつけた子どもたちが、放課後に自分の極めたい部分を伸ばせる社会教育の場です。運営している方々によって、子どもたち一人ひとりの能力を見極めて指導してもらっているのだと感じています。

学校教育から放課後学習につながり、それが高校生、大学生、社会人へと繋がっていく。美浜町で学び巣立った子どもたちが帰ってきて、今の小学生を指導しようとか、町に関わり続けようとか、そういう流れを構築したいと考えています。

にぎわいを町全体へ

人材が地域の中で循環し、最終的に「町のにぎわい」に繋がっていく。町長が描くこのシナプスの流れを加速させる上で、さらに力を入れたい施策はありますか?

戸嶋町長:私はいつも、まちづくりは人づくりであり、集落の元気が町の元気だと思っているんです。だからこそ、次に力を入れたいのは集落の活性化ですね。

首長に就任した2019年に町内の全集落を回り、各集落の20年後、30年後の世帯数や高齢化を予測したデータを出し、住民の皆さんに将来の夢と危機感を共有してもらい、協力して集落づくりに向け行動するきっかけづくりを推進しました。

予測データから、横の繋がりが展開できている集落は高齢化や過疎化があまり進んでいない一方で、「移住した子どもが帰ってきて親の面倒をみてくれればいい。私たちは関わらない。」という発想にとどまった集落は、過疎化が急激に進むという、相関を垣間見ることができました。

そうしたことから、集落を元気にするのは、集落間の繋がり、いわば「集落シナプス」をいかに醸成するかが大事であり、限界集落を抱える我々の課題のひとつの答えが「集落シナプス」だと感じています。みんなで活動を盛り上げ、県や様々な方面から高い評価を受けている素晴らしい集落も出てきています。そうした成功例は他の集落のカンフル剤になっていくので、新しいノウハウや情報を取り入れながら注力していきたいですね。

全国に先駆けて関係人口プラットフォームを構築。今後はさらなる関わりしろ創出に注力

地域内のつながりを強めると同時に、美浜町では外からの関係人口、いわば「応援人口」を登録する取り組みも早くからはじめられていますよね。

戸嶋町長:町長就任時に、まちづくりの方向性として「誰もが訪れたい」「誰もが住みたくなる」「誰もが応援したくなるまちづくり」というコンセプトを掲げました。美浜へ行ってみたら景色も綺麗だし、人も温かい。何か応援したい。そんな方を一人でも二人でも増やしたい。そのために2021年から「みはま応援クルー」を公募し、現在413人の方に登録いただいています。

ただ、コロナ禍を挟んだこともあり、今は情報提供にとどまり、メンバーの得意分野を機動的に活かしきれていないのが実情です。国でも後から制度(ふるさと住民登録制度)ができましたが、我々はそれ以上に、本当に熱く、アクティブに応援していただける方が活躍できるフィールドと機会を作りたいと考えています。


この応援クルーが本来の姿で動き出し、シナプスや集落の取り組みに繋がれば、大きな町の動きになる。その仕組みを一緒に動かしてくれることを、外部パートナーには期待しています。

“人づくり”の先にある、5年後・10年後の美浜町

移住や定住には「教育環境」に加え「労働環境」も重要です。U・Iターン人材に選ばれるために力を入れたいことはありますか。

戸嶋町長:若い方々が活躍できるフィールドをいかに広げるかが課題です。働く場の確保や、情報通信の基盤づくりも重要になります。

新幹線が敦賀まで延伸しましたので、仮に大阪まで繋がれば通勤圏にも入ります。田舎でありながら活躍できる環境をつくるため、企業誘致など、若い方々が求める受け皿づくりを進めていきます。

最後に、戸嶋町長が描く5年後、10年後の町の姿を教えてください。

戸嶋町長:やはりベースは人づくり、そして住む方々が人に対して「思いやりの心」を持った町であることです。

先日も、美浜町で育った大学生が「将来、美浜町の町長を目指すんだ」と語ってくれました。そうした思いを持つ次の世代へバトンが繋がり続けることこそ、人づくりでありまちづくりです。

もちろん人づくりだけでは生活できませんから、そこに産業や観光も組み合わせ、住み続けたいと思える町にしていきます。

学校現場や外部の皆さんと連携し、これまで気づけなかったことをお互いに共有し取り組むことで、また新しい発見が生まれる。人が関わること、繋がることそのものが、まさに“シナプス”なのだと思います。

※この記事は2026年07月時点の情報です。


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